コンポジションの時間
2023年1月14日・15日に開催された「コンポジションの時間」無事終了いたしました。現代音楽イベントが皆無な信州で行うということで、集客に不安がありましたが、信州やまた都内からもお客さまに集まっていただき、兼ねてからやりたかった「温泉×創作」のイベントを開催することができました。
今回は、さっきょく塾とやまびこラボの共催ということで、半分はさっきょく塾のオフ会と発表会を兼ねておりましたが、共に同じ空間で過ごす時間の濃密さを感じる二日間でした。
さっきょく塾は、わたしが欧州在住歴が長くなり、日本との繋がりの薄さを感じたことをきっかけにスタートし、今年で5年目に入ります。欧州に来た当初は日本語が思考のメインであったのですが、生活の必要に迫られてその思考の言語は徐々にドイツ語に変化しました。二か国語で思考することは二つの異なる異物を抱え込むようで、それ自体が面白く、時に日本語的に思考したりドイツ語で考えたりを行き来していたのですが、長くきちんと日本語を書かなかったせいで、日本語での思考能力に疑問を抱え始めたのが、2018年頃でした。欧州に来たのが2008年だったので、約10年間ドイツ語で思考してきたところで、日本語に陰りが見え始めたのだと思います。そこから、日本語で思考することを取り戻すのに時間がかかりましたが、さっきょく塾でのみなさんとの交流を通して、この二つの思考のバランスがようやく取れるようになりました。
現在は日本で生活をしながら、時にドイツ語的な思考で考えることも面白く、この二つはわたしの生活の中では今やなくてはならない存在です。
わたしは小さい頃から音楽を学べる環境にあり、長く留学をさせてもらい、多くの経験を持つことが出来ました。自分でも努力をしてきた自覚もそれなりにありますが、その大半は経済的環境がもたらした結果であったと思っています。実際的な教育だけでなく、それそのものを知るチャンスがあるかどうかも、おかれた環境によるところが大きいのではないでしょうか。
自身が恵まれた環境にあることに感謝しながらも、その反面、経済的に恵まれた環境に置かれた人たちが考える「当たり前」が「当たり前」ではないこと、一種の限定的な考えに疑問を抱くこともあり、どうやって西洋音楽の延長にある「現代音楽」によって多様性を創造したり、享受できる世界になるのだろうか、と考えてきました。
さっきょく塾では、あらゆる環境におかれた人でも音楽について考えたり、作ったり、創造できることを目的にしています。これまで経済的な環境で音楽を辞めていった人たち、また家庭に入ることで創作を捨ててしまった人たち、介護や育児、様々な要因で音楽と共にある人生をあきらめた人たちを見てきました。音楽家とは、人生が音楽と共にある人たちのことを指すのだろうと、そうだとすると音楽で生計を立てているかという観点だけでなく、その思考そのものが、何らかの形で音楽と結びついているのかどうかが鍵になってくるのだろうと思います。そして、さっきょく塾で学ぶ多くの人が、その鍵を持っているのではないかと思っています。
さっきょく塾は今年で五年目です。一緒に育ってきた思考の芽の一つ一つが開いていく過程をこのイベントで垣間見ることができた気がしています。支えてくださった多くの講師のみなさま、参加してくださった塾生のみなさま、関係者のみなさまに感謝したいと思います。
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